がんと生活習慣病
食習慣、運動習慣、休養の取り方、嗜好などの生活習慣が発症・進行に大きく関与する病気が生活習慣病であるということから、“高血圧”“糖尿病”だけでなく“がん”もまた生活習慣病ということになります。1970年代、心筋梗塞やガン、脳梗塞、肥満などの生活習慣病が多かったアメリカでは、その後、食生活を改め、くだもの、野菜、未精白の穀物、鶏肉、魚、スキムミルク、植物油の摂取を増やし、牛乳、肉、卵、バター、砂糖・塩・脂肪の多い食物の摂取を減らすことに努めました。以来40年、2011年には1977年に比べて心筋梗塞による死亡数が58%、加えて、ガンによる死亡数が17%も減少しました。この事実は、がんの手術成績が向上したと言うよりもがんの予防に成功したということを意味しています。
すなわち、がんを予防することと他の生活習慣病である高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満を予防・治療することは同じ意味と言えます。これさえ守れば絶対にがんにならないという方法はありませんが、健康的な生活を送ることつまり、栄養、運動、休養、喫煙、飲酒についての正しい生活を習慣づけていくことが、結局はがんの予防にもなるということです。
当クリニックでは専門である消化器のがんの早期診断に加えて、生活習慣病の予防・治療を行うことが、がんのリスクを減らすことにつながると考え診療を行っています。
がんのリスクと予防
がんを含むすべての病において、「予防」に勝る治療はありません。“1次予防”とは、病気の発生そのものを予防することを指し、適正な食事を食べ、運動不足を解消し、なるべくストレスを引き下げるなどして健康的な生活習慣づくりを行うことで病気を予防することです。また、“2次予防”とはことばをかえれば、早期発見・早期治療です。病気が進行しないうちに見つけて、早く治すことを目標とします。
まず、がんの「1次予防」について考えてみたいと思います。
がんの一次予防
がんと生活習慣の関連に関しては、世界保健機関(WHO)や国際がん研究機構(IARC)、世界がん研究基金(WCRF)、米国がん研究協会(AICR)などが評価報告書を出しています。その報告書の中では、食品、栄養と身体活動について予防要因とリスク要因に分け、科学的根拠の観点から評価していますが、ここでは、主要ながんの「確実」な要因、「可能性大」な要因を中心に説明します。
胃がん
予防要因 | リスク要因 | |
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確実 | たばこ | |
可能性大 | 非でんぷん野菜 アリウム野菜 果物 |
食塩 塩蔵品 |
アリウム野菜とはユリ科ネギ属の植物の総称で、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、ネギ、タマネギ、アサツキなどがあります。
非でんぷん野菜とは、でんぷん質を多く含まない野菜のことで、キュウリ、ピーマン、色の濃い葉物、ズッキーニ、ナス、スクワッシュ、アスパラガス、ブロッコリー、キャベツ、芽キャベツ、豆、ラディッシュ、ホウレンソウなどがあります。
生活習慣とは関係ありませんがIARCは、全世界の胃がんの約8割がヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染が原因であるとの報告書を発表しています。
大腸がん
予防要因 | リスク要因 | |
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確実 | 運動 | たばこ 肥満 内臓脂肪 赤身・加工肉 アルコール(男性) 高身長 |
可能性大 | 食物繊維 果物 にんにく 牛乳 カルシウム |
アルコール(女性) |
ただし、日本では国立がん研究センターが大腸がんの発生に関して、日本人の平均的な摂取の範囲であれば赤肉や加工肉がリスクに与える影響は無いか、あっても、小さいと言えます。
食道がん
予防要因 | リスク要因 | |
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確実 | たばこ 肥満(腺がん) アルコール |
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可能性大 | 非でんぷん野菜 食物中のβカロチン 食物中のビタミンC 果物 |
熱い食べ物 マテ茶 |
この腺がんとは、バレット食道と呼ばれる組織から発生するバレット腺がんと呼ばれるもので、全食道がんの3%程度を占める病気です。
肝臓がん
予防要因 | リスク要因 | |
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確実 | アフタトキシン(カビ毒) たばこ |
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可能性大 | アルコール |
生活習慣とは関係ありませんが、肝臓がんにはB型・C型肝炎ウイルスの感染が大きく関係していることが分かっています。
すい臓がん
予防要因 | リスク要因 | |
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確実 | たばこ 肥満 高身長 |
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可能性大 | 食物に含まれる葉酸 | 内臓脂肪 |
糖尿病を持っている方がすい臓がんになるリスクは、持っていない方の2倍です。
肺がん
予防要因 | リスク要因 | |
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確実 | たばこ 他人のたばこの煙 βカロテンのサプリメント |
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可能性大 | 非でんぷん野菜 果物 |
タバコをすっている方が肺がんになるリスクはすっていない方の約4倍です。
女性の肺腺がんのリスクは、夫のタバコの本数が1日20本未満では1.7倍、20本以上だと2.2倍になり、本数が多いほど受動喫煙の影響も大きいことが指摘されています。別の調査では、タバコをすわない女性が家庭や職場で受動喫煙の状態にある場合、乳がんの発症リスクが最大で2.6倍にもなることが報告されています。
この他に、リスクを下げる可能性があるものとして、大豆、魚、n−3系脂肪酸、ビタミンB2、B6、B12、C、D、E、亜鉛、セレン、非栄養性植物機能成分(例:フラボノイド、イソフラボン、リグナン)等が挙げられています。また、リスクを上げる可能性があるものとして、動物性脂肪、ヘテロサイクリックアミン(肉を高温で調理するとできやすい化学物質)、多環芳香族炭化水素(炭焼きやスモークした食品に多く含まれる化学物質)、ニトロソ化合物(加工食品などに多く含まれる化学物質が挙げられています。
がんの二次予防
どんなに生活に注意を払っていても、がんになる可能性はゼロではありません。それぞれのがんの早期発見と言われる時期に発見できれば、高い確率でがんは治ります。がんの早期治療には、早期発見が欠かせないため、地域のがん検診を受診しましょう。また、職場の検診や人間ドックも利用しましょう。
当クリニックでは、消化器がんの早期発見を目的に消化器ドックを行っております。日本人のがんの発生率を臓器別にみると消化器系のがんが約半分を占めます。消化器系のがんは発見が早ければ比較的治療が容易で予後も良好だといわれています。