逆流性食道炎と胃食道逆流症(GERD)
“逆流性食道炎”という病気は胸やけなどの症状があり、内視鏡的に粘膜が障害されているものをいいます。しかし、内視鏡では異常を認めないにも関わらず、逆流性食道炎と同様な症状を起こす方が増えてきたため、最近では胃酸などの胃の内容物が食道内に逆流することで起こる病態を総称して、“胃食道逆流症（GERD）”という名前で呼ぶようになりました。
“胃食道逆流症”は、もともと日本人には少ない病気でしたが、食生活の欧米化などによって、最近、患者さんが増える傾向にあります。胃食道逆流症は胃と食道のつなぎ目の筋肉の働きが低下する、胃酸が多く出る、食道の知覚過敏がある、などが原因で、強い酸性の胃液や、胃で消化される途中の食物が食道に逆流して、そこにとどまるために、食道が炎症を起こし、胸やけや胸の痛みなどさまざまな症状が生じる病気です。
症状
胸やけ・呑酸（どんさん）
胃液や胃の内容物が食道に逆流すると、胸のあたりに焼けるような不快な感じがする胸やけが起こります。また、酸っぱい液体が口まで上がってきてゲップがでる「呑酸（どんさん）」という症状が現れることもよくあります。ひどい時は吐いてしまうこともあります。
胸のつかえ感
ものを飲み込みにくく感じたり、のどに異物が使えているような感じがすることがあります。
胸の痛み
胸がしめつけられるような、狭心症に似た痛みを感じることがあります。
咳・喘息
咳や喘息が起こることがあります。逆流した胃液が、のどや気管支を刺激したり、食道の粘膜を通して神経を刺激したりして起こると考えられています。胃食道逆流症の治療を行うと、喘息の症状が改善する患者さんもいます。
のどの違和感・声がれ
逆流した胃の内容のためにのどに炎症が起こり、違和感や痛みを感じることがあります。ひどくなると食べ物が飲み込みづらくなったり、声がかれたりすることもあります。
中耳炎や副鼻腔炎、睡眠時無呼吸症候群などの病気との関連も示唆されています。
また、かぜをひいた時には咳が悪化したり、肺炎になりやすいとも言われています。
検査
内視鏡検査（胃カメラ）で粘膜の状態を観察し、炎症の程度を評価します。ただし、内視鏡検査を行っても粘膜に異常が見られないものや程度が軽いにもかかわらず、症状が強い場合もあります。
診断
内視鏡検査の結果と問診によって、この病気の診断をします。しかしながら、内視鏡検査と症状の程度が一致しないことがよくみられます。これは似たような症状を起こす他の病気が存在するためです。これには“機能性ディスペプシア”や“好酸球性食道炎”、“機能性胸やけ”などがあります。
治療
生活習慣の改善や内服治療を行います。
生活習慣病の改善
腹八分目を心がけて食べ過ぎない。
食後すぐに横にならない。夕食は就寝の3時間前までに済ませる。
アルコール、脂っこいもの、脂質分の多い食品、たばこをできるだけ避ける。
内服治療
よく使われるのは、胃酸の分泌を抑える薬です。食道へ逆流している胃酸を少なくすることで、逆流性食道炎の症状や炎症を改善します。まず、プロトンポンプ阻害薬（PPI）を用いることが多いです。食道の粘膜を保護する薬や胃の運動を活発にする薬、漢方薬を一緒に飲むこともあります。
手術療法
生活習慣病の改善と内服治療が主となりますが、再発を繰り返し、薬での治療が難しくなった場合は、開腹手術や腹腔鏡手術を行う場合もあります。
※逆流性食道炎の中でも最近問題になっているのは、“非びらん性胃食道逆流症（NERD）”、中でもPPI抵抗性NERDと言われるものです。
NERD（非びらん性胃食道逆流症）
逆流性食道炎の症状があるにもかかわらず、内視鏡では明らかな所見が見られない、非びらん性胃食道逆流症(NERD)が注目されています。日本人は外国人に比べこのNERDが多いと言われています。また、その半数程度は内服治療が効きにくいと言われています。内視鏡では診断がつかないため、適切な治療が行われていない可能性もあります。内服治療を受けているのに症状がなかなか改善しないのは、この病気かもしれません。
