帯状疱疹ワクチン

帯状疱疹とは

帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルスが原因で皮膚症状が現れる疾患です。初期段階は、皮膚にピリピリと痛みが現れ、時間が経つにつれて発赤や水疱が形成されます。皮膚症状が広範囲に広がったり、顔面神経麻痺や視力障害を招くこともあります。
水痘帯状疱疹ウイルスに一度感染すると、皮疹が治ったあともウイルスは生涯にわたって体内に潜伏します。
皮疹が現れる部位は、特徴として体の左右どちらかの片側に、同じ高さで帯状に紅斑や小さい水ぶくれがいくつも出現します。体の中心をまたいで両側に症状が出ることはなく、どちらか片側に出るのが大きな特徴です。これは、皮膚表面にある神経領域に一致して症状が現れるためです。場合によっては、顔の眼の周囲に症状が出たり、片側のまぶたが腫れて眼が開けにくくなったりします。

その他の皮膚疾患と見分けるポイントは、以下の通りです。

  1. 皮膚症状は、体の中心線をまたいで両側に出現することはない
  2. 皮膚症状よりも先に痛みが生じる
  3. 痛みが先行して出る期間は1週間程度のため、それ以上経って皮膚症状がなければ帯状疱疹ではない

帯状疱疹の治療を行った場合、約1週間で水ぶくれが破れて瘡蓋となります。紅斑や水膨れなどの皮膚症状は、約2週間~1週間ほどで治ります。ただし、帯状疱疹の治療を行わずそのまま放置してしまうと、長期にわたって頑固な痛みが続き、日常生活に大きな支障を及ぼすことがあります。
また、適切な治療を行って治癒しても、しばらく経って痛みが現れることがあります。これが2~3カ月続くこともあり、痛みの性状も変わってくる「帯状疱疹後神経痛」に移行することがあります。
稀に、帯状疱疹なのにただの虫刺されなどと放置して、受診をせずに症状が悪化するケースが多いため、帯状疱疹について知っておくことも非常に大切です。

帯状疱疹の原因

水痘帯状疱疹ウイルス感染が原因です。これは、外部から侵入したウイルスではなく、すでに体内に潜んでいるウイルスが活発になって発症します。水痘帯状疱疹ウイルスは、小児期に水疱瘡を起こすウイルスで、ほとんどの人が既に幼少期に感染しています。
帯状疱疹ウイルスは、その後生涯にわたり体内に潜伏し続けます。通常は、悪さをすることなく影響はありませんが、疲労やストレスなどで免疫機能が低下することで、帯状疱疹ウイルスが再活性化して帯状疱疹を発症します。

ウイルスは、脊髄からの知覚神経がすぐ出たところの後根神経節に遺伝子のみの形状で潜伏し、再度活性化する機会がないか待機しています。再活動すると、神経を上行し皮膚に届くことで帯状疱疹となります。これを「回帰感染」または「再帰感染」と言います。また、皮膚の知覚は、脊髄から出る知覚神経がそれぞれ左右に半分ずつ区分されていて、特定の神経節から皮膚に到達するまでの神経が支配する皮膚部分に発疹が現れます。

合併症「帯状疱疹後神経痛」とは

帯状疱疹ウイルスによって、神経や皮膚に炎症が起こることで痛みが生じます。通常は、この急性期の痛みや炎症が治まることで症状が回復します。しかし、帯状疱疹後神経痛として、ウイルスが通過することで神経が損傷し、長期にわたり痛みが残存することがあります。これは、帯状疱疹の合併症としてよく見られ、帯状疱疹にかかった後に、慢性的に神経痛が持続します。皮疹が軽快して3カ月以上経っても痛みが残存する場合、帯状疱疹後神経痛と判断されます。

帯状疱疹後神経痛は、破壊された神経自体が損傷して現れる痛みのため、回復しにくいのが大きな特徴です。帯状疱疹初期に現れる痛みとはしくみが異なり、長期化するため酷い苦痛が伴います。その症状は個人差がありますが、「電気が走るような鋭い痛み」や、「焼けるような痛み」などと表現されるように、強い痛みが生じます。難治性のため、帯状疱疹にかかった場合は、帯状疱疹後神経痛に移行させないことが治療目標の1つとなります。特に、急性期の痛みが強い場合、皮膚症状が酷い場合は、帯状疱疹後神経痛に移行しやすいため、気になる皮膚症状が現れたら速やかに治療を行うことが重要です。

以下のような方は、帯状疱疹後神経痛に移行しやすい可能性があるため注意が必要です。

  • 急性期の皮膚症状が重症の場合
  • 眠れないほど強い痛みがある場合
  • 60歳以上の高齢者

また、合併症として挙げられるのは帯状疱疹後神経痛の他、眼や鼻周囲に発症した場合に結膜や角膜にウイルスが入り込んで結膜炎や角膜炎を起こしてしまい、視力低下などを招きます。また、耳周囲に発症した場合は、めまい・難聴・顔面神経麻痺などを起こす恐れがあります。この場合、ラムゼィ・ハント症候群といわれ、それぞれ治療方法が異なります。

治療方法

基本的に、抗ウイルス薬を全身に投与して帯状疱疹ウイルスの増殖を抑えます。特に、皮疹が現れてから3日以内に開始することが良いとされています。帯状疱疹の治療で重要なことは、症状の重症化や帯状疱疹後神経痛への移行を防ぐことです。そのためにも、なるべく早く治療を開始することが望ましいとされています。

全身投与には、内服薬と注射薬があり、症状が酷い場合や強い痛みがある場合は、入院加療が必要となります。
抗ウイルス薬の全身投与は、7日間行います。皮疹に対しては、非ステロイド性抗炎症外用薬や抗菌剤含有外用薬が使われ、抗ウイルス外用薬は使用しません。これは、全身投与に行う抗ウイルス薬の効果が強く、外用薬は必要ないということです。保険の上でも、抗ウイルス薬の内服と外用は認められていないのも理由の1つです。

抗ウイルス薬の全身投与後は、それぞれの症状に応じて鎮痛剤を用いて皮膚症状を経過観察していきます。ほとんどのケースで、1カ月以内で治癒します。1カ月以上経過しても皮膚症状や痛みが継続して強くある場合は、帯状疱疹後神経痛に移行している恐れがあります。この場合は、神経損傷による神経痛の治療を行います。神経痛には、慢性神経疼痛用内服薬・麻薬性鎮痛薬(オピオイド)などが使われます。これらの薬物療法は、効果の現れ方に個人差があったり、副作用があったりするため、医師の診断と投与量・投与スケジュールなどを慎重に考慮しながら決定する必要があります。

また、なかなか改善が見られない場合は、専門クリニックをご紹介して、神経ブロック注射などを定期的に実施することも検討されます。
なお、薬物療法以外では、理学療法を併用して痛みを緩和することもあります。
以上の治療を組み合わせても痛みが継続して残存する場合は、日常生活で工夫しながら帯状疱疹の症状と上手に付き合うことも重要です。

具体的には、

  • 温泉などで気分転換を図る
  • 入浴回数を増やして血液循環を促す
  • 患部を保温して冷やさないようにする
  • ガーゼやサラシを巻いて患部を刺激しない
  • 疲労やストレスを回避する
  • 趣味などに熱中して痛みや皮疹を意識しないようにする

などの工夫が必要です。

帯状疱疹を予防するワクチン

帯状疱疹予防ワクチンには、「弱毒性生ワクチン」と、「組換え帯状疱疹ワクチン」の2種類があります。いずれも対象年齢が50歳以上で、過去に帯状疱疹の既往歴がある方も接種できます。
すでに潜伏感染している高齢の方に対して、将来の帯状疱疹発症を予防するために帯状疱疹ワクチンの接種を普及することで、帯状疱疹や水痘の発症を根絶させることを目指しています。

弱毒性生ワクチン

日本において、小児の水痘予防ワクチンとして使用されていたワクチンです。2016年より、50歳以上を対象として帯状疱疹予防として承認されています。海外で使用されているZostavax(帯状疱疹予防生ワクチン)と同量のウイルスを含有しているため、帯状疱疹に対しても発症予防が期待されています。60歳以上の方への接種で、帯状疱疹発症率が51.3%低下すると同時に、帯状疱疹後神経痛の発症が66.5%抑えられるという調査結果があります。乾燥組換え帯状疱疹ワクチンよりも予防効果が劣りますが、皮下注射を接種回数1回の低価格というメリットがあります。

組換え帯状疱疹ワクチン「シングリックス」

2020年1月より開始した帯状疱疹専用予防ワクチンです。予防効果が非常に高く、効果の持続期間も長いとされています。その有効性は、50歳以上で97.2%、70歳以上で89.9%予防できるというデータがあります。
筋肉内注射の接種を2回行います。また、帯状疱疹専用のため高価格です。また、痛みや腫れ・筋肉痛・倦怠感・発熱・頭痛など、強い副反応が特徴ですが、だいたい3日以内には治まります。

当院では、いずれのワクチンも50歳以上を対象として実施しております。ワクチンご希望の方は、一度診察にて適応や副反応の説明を行ってからのご予約となります。

帯状疱疹ワクチン接種費用

帯状疱疹ワクチン
弱毒性生ワクチン 10,000円
組換え帯状疱疹ワクチン「シングリックス」 1回   22,000円
2回   44,000円